再生医療の実際

①幹細胞とは

人間は細かな細胞の集合体です。人間を構成する細胞は、血液、皮膚、骨など細胞ごとに寿命が異なります。寿命が長い細胞もあれば、短いものもあります。我々人間は、絶えず入れ替わり続ける組織を保つために、寿命を迎えた細胞に置き換わる細胞を次々に生み出して補充する能力を持った細胞を持っています。また、組織ダメージを受けた時も失われた組織を補充する能力を持った細胞が必要となります。私たちの身体は約60兆個の細胞で構成されていますが、毎日200億個の細胞が死滅して常に入れ替わっており、老化や病気によりその機能は損なわれていきます。この損傷した細胞の修復や欠損した細胞の穴埋めを行うのが、「幹細胞」になります。幹細胞の存在なしに、人間の成長はなく、日々の身体を維持は不可能です。

②幹細胞の能力

幹細胞はこれらの2つの能力を持っています。

① 自己複製能:自分とまったく同じ能力を持った細胞に分裂することができる(幹細胞が幹細胞に分裂する能力)

② 分化能:わたしたちのからだをつくるさまざまな細胞を作り出す能力(皮膚、血液、神経、血管、骨、筋肉など)

③「多能性幹細胞」3種

ES細胞(胚性幹細胞:Embryonic Stem Cell)

胚は、受精卵が数回分裂し、100個ほどの細胞のかたまりとなったものです。この胚の内側にある細胞を取り出して、培養したものがES細胞です。ES細胞は半永久的に存在でき、目的の細胞へと分化させることができることから、再生医療への応用期待がありました。しかしES細胞から細胞や臓器をつくることができたとしても、他者への移植には拒絶反応が問題や癌化の問題があります。また、生命の源である胚をこわして作るという倫理問題を含んでいます。


ntES細胞 (nuclear transfer Embryonic Stem Cell)

受精前の卵子から核を取り出し、皮膚など他の体細胞の核を移植して胚(クローン胚)を作り、胚の内側の細胞を取り出して培養したものをntES細胞といいます。ntES細胞は、患者自身の体細胞の核を持つため、拒絶反応はおきないと考えられています。ただし、卵子の提供を必要とするという問題があります。


iPS細胞(人工多能性幹細胞:induced Pluripotent Stem Cell)

皮膚などのからだのなかにある細胞に、リプログラミング因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)と呼ばれている特定の因子群を導入すると、細胞がES細胞と同じくらい若返り、多能性を持ちます。このように人工的に作った多能性幹細胞のことをiPS細胞といいます。世界ではじめて作製した山中教授によって名付けられました。

その後、より安全で高品質のiPS細胞を作製するために様々な研究が進められています。iPS細胞は胚の滅失に関わる倫理問題もないうえ、患者自身の体細胞から作り出せば、拒絶反応の心配もないと考えられています。しかしその作成の難しさや、癌化リスクがあるために、実用化まで時間を要しています。


これらの多能性幹細胞は、わたしたちのからだのなかにある様々な組織幹細胞を作り出すことができます。

④「組織幹細胞」

大人になり、見かけの成長がとまっても幹細胞は存在しており、一生を通して、組織が損傷したときに細胞を補填する働きをします。これらの幹細胞は、組織幹細胞(成体幹細胞・体性幹細胞)と呼ばれています。


中でも、骨髄などに存在する造血幹細胞は、半世紀以上前から研究され、臨床応用も活発に行われています。この造血幹細胞移植の治療法確立は、あらゆる組織幹細胞を利用する移植治療の可能性を広げました。しかしながら、組織によっては生体内から幹細胞を分離することが困難で、治療に用いることが難しいものもあります。例えば、脳や心臓などの組織幹細胞がそれにあたります。


そこで注目されるのが間葉系幹細胞です。間葉系幹細胞は、発生過程で中胚葉から分化する脂肪や骨にすることができ、その上、成人の骨髄から採取できます。そして近年、骨髄に存在する間葉系幹細胞と似た性質をもつ幹細胞が皮下脂肪内にも多く存在するということがわかってきました。これは脂肪由来間葉系幹細胞といわれ組織幹細胞の中でも採取が簡単で、組織量も豊富に存在することから治療細胞として注目されています。


これまでの研究で、間葉系幹細胞は中胚葉系の骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞などだけではなく内胚葉系の内臓組織や外胚葉系の神経などの細胞にも分化する能力を持つことがわかりました。


また近年、間葉系幹細胞が免疫抑制作用を持つことや腫瘍に集積する性質があることが報告され、間葉系幹細胞を移植後の拒絶防止に利用する研究や、がんの遺伝子治療薬の運び屋として利用する研究が行われています。

⑤再生医療の分類

再生医療とは、機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、主として培養増殖した幹細胞を体内の患部へ移植することにより機能的・器質的に損なわれた臓器や組織の機能の再生を目指す医療です。

これまで治療法のなかった(難治性)ケガや病気に対して、新しい医療をもたらす可能性があります。また、再生医療の技術を用いて、難病の原因解明や薬の開発も進められています。

再生医療には、本人の細胞を取り出して使用する場合と、他人の細胞を使用する場合とがあり、そのリスクによって3つに分類されます。(再生医療安全性確保法)


第1種再生医療等:ヒトに未実施など高リスク(ES細胞、iPS細胞等)

iPS細胞やES細胞などを使用する治療や他人の細胞を培養して治療する場合


第2種再生医療等:現在実施中など中リスク(体性幹細胞等)

自分の幹細胞を培養して治療を行う場合


第3種再生医療等:リスクの低いもの(体細胞を加工等)

治療の対象となる部位と同じ機能を持った自分の細胞を培養せず治療する場合(幹細胞培養上清液使用等)


※整形外科等が扱う関節障害の治療などは第二種

※皮膚科、美容外科で行われている幹細胞培養上清液の点滴は低リスクの第三種